あやかしびと |
発売日:2005.06.24/ propeller |
全CGと回想を補完してコンプしました。
所用時間は1stプレイで約15時間。コンプまでは40時間弱といったところでしょうか…想像以上にボリュームがあって少々驚きました。
人ならざる能力を有する“人妖”達が収容される孤島の織咲病院で10年以上も生活していた主人公「武部涼一」。
彼はある事件をきっかけに島(琥森島)の森に住む少女「すず」と共に島から脱走することになった。
二人は「如月双七」「如月すず」と名を変え、人妖都市と呼ばれる神沢市で憧れだった普通の学生としての生活を送ろうとしていた。
だが彼らには人妖追跡機関(ドミニオン)の追っ手が差し向けられていたのだった…というあらすじ。
ゲームは2〜4択の選択肢を選んでいくことで進行・分岐するオーソドックスなタイプ。
一応エンディングの存在するヒロインは4人で各ヒロインルートへの分岐は非常にわかり易いものになっているので難易度は低め。
ただ選択肢によって若干イベントやエンド種別が変わるのでイベント補完はちょっと苦労するかもしれません。
ちなみに「すず」のルートは他の3人のエンディングを見た後でないと入れないようになっています。
学園青春恋愛伝奇バトルADVと聞くと「何となく色々と盛り込んでみました」という感じの中途半端さが不安になったりしますが、結論から書くと個人的にはどれも高い水準で楽しむことが出来ました。
序盤ではずっと憧れてた学園生活を噛み締める主人公や、生徒会活動を通して他人と打ち解ける(打ち解けようとする)描写がそれなりに描かれていて感情移入度は高め。
ヒロインルートに入ってからもそれぞれのヒロイン毎で大きく異なるストーリー展開の幅広さは好印象でした。
細かいことを書けば逃亡者の身でありながら緊迫感が薄かったりキャラの行動に今ひとつ説得力が不足していて不自然に感じたり…と言った不満もあるのですが、そういう細かい不満は流せてしまえるくらい展開に勢いがあって物語への吸引力はかなり高いと思います。
最初にも書いたように結構時間のかかるゲームな上に私自身は文章だけを長時間読むのが苦手であるにも関わらず中弛みをほとんど感じませんでしたから…。
主人公側だけでなく、合間に敵側の動向を描いているのも中弛みしない理由になっていたんじゃないかと。
そしてこのゲームを語る上で外せないのが魅力的で味のあるキャラクター達。
まず主人公は十数年をいわゆる刑務所のような施設で過ごしたという設定ながら変に捻くれたところのない真っ直ぐな性格、そしてそれが常に行動にも現れていてプレイしていて非常に心地良かったです。
ヒロイン達は一部に恋愛描写で難ありと感じられるキャラがいましたが、言動の端々にキャラの性格が良く出ていて萌え度は高めだったし各ルートでの見せ場はかなり惹きつけられました。
ですが、実はこのゲーム…キャラの魅力は主人公やヒロイン達よりむしろサブキャラ達の方が高かったりします。
一年生コンビのさくら&美羽もヒロインを食うほどキャラが立っていますけど、それ以上に男キャラ達がカッコ良すぎなんですよ。
女性キャラよりも男性キャラの方が人数が多い…というのもエロゲとしてはかなり異色ですが、その中でも虎太郎先生やウラジミールなどは主人公の立場が無くなるほどの活躍ぶりを見せてくれます。
ただ残念なのは活躍するルートが限定されている点でしょうかね。
そういう意味では敵キャラとして全ルートで立ちはだかる九鬼や光念兄弟などの方が恵まれてるかも知れません。
バトルシーンは一部を除いて細かい駆け引きなどの描写が不足している感じがして少々欲求不満ぎみ。
一乃谷愁厳との2度目の戦闘やトーニャルートでの九鬼戦などは結構燃えたけど、各ルートの終盤の戦闘…特に対ドミニオンメンバーとのバトルはぶっちゃけ“派手なだけ”と感じてしまいました。
まぁそれでも勢いはあるし、実際に私自身も読んでいて熱くなったシーンも結構あったので概ね満足しています。
ただ「すず」ルートのラストバトルはオート進行な上にテキスト速度が速めで読みきらないうちに勝手に進んでしまったのはマイナスかなぁ…BGMに主題歌を使用してなんか盛り上がってるというのは感じられましたが、バトル内容と合わせてちょっと白けました。
初回特典の「あやかしぼん」を見るとライターさんは自信を持っているような事を書いてましたが…申し訳ないけど私にはライターさんの自己満足なんじゃないかなという印象。
エロシーンは各ヒロイン2回ほど発生。
尺は思ったよりも長めでしたがテキストでのエロ描写よりも喘ぎ声やチュパ音が大部分を占めてます。
声優さんはどのキャラもかなりよさげなので個人的には結構満足。
ただエロシーンへの入り方は一部でかなり無理があるなぁと感じました。
特に薫ルートのエロシーンはもうちょっとTPOをわきまえろと。
逆に刀子やすずのエロシーンは良いタイミングで発生していたと思います。
ちなみに普段は主人公にも声があるのですが、エロシーンになると喋らなくなるのは嬉しい配慮だと感じました(笑)。
それとヒロインキャラだけでなく、ほとんどの女性キャラにエロシーンが存在するのも個人的には嬉しかったかな。
ただしサブキャラのエロシーンは主人公がHするものではなく、他の男キャラだったり三下の野郎達に輪姦されたり…と言ったものが多いので人によっては引くかも知れませんので注意。
エロゲに限らず主人公と知り合ったキャラは強姦されそうになっても寸前で助けが入る展開のものが多いですけど、このゲームの場合は容赦なく輪姦されるのでちょっと新鮮に感じました。
システムまわりで気になったのは左クリック時に1秒ほど長押しすると強制スキップが発動するのが鬱陶しいと感じた事くらいかな。
せめて既読スキップにしてくれれば良かったんですけどね。
CGはイベント絵に関しては特に不満はありませんが背景の使い回しが多いのが気になりました。
あとBGMも戦闘シーンではもうちょっとノリの良い曲を書いて欲しかったです。
OPやED曲はエロゲでは珍しい男性ボーカルですけど、どちらもお気に入り。
まとめると細かい不満点はいくつかあるが、魅力的なキャラクター達の織り成す熱いノリと勢いで不満点が気にならなくなるほど時間を忘れてプレイに集中できた良作と言ったところです。
以下、各ヒロインキャラごとの雑感(ネタバレあり)。
一乃谷 刀子
生徒会長「一乃谷愁厳」の妹で一乃谷神社の巫女さん。兄の愁厳より剣の腕は上。
主人公を意識しだしてからの言動が萌える。
初キスの後に一人悶えて壁を破壊しまくる仕草など文字通り破壊力ありましたですよ(笑)。
他にも主人公がトーニャにキスされた後の反応とか、初Hで中出しした後の言動とかがもう最高です。
シナリオ展開も全ルート中で一番見せ場が多かったように思います。
ニセ恋人を演じてトーニャと協力して藤原さんを煽るイベントは笑い転げたし、一乃谷の宿命と主人公への想いとで苦悩する様も良い感じで描かれていたんじゃないかと。
展開的にも刀子(逢難)vs天とか妖vs刀子・九鬼などなかなか楽しめました。
欲を言うと虎太郎先生とかトーニャあたりが見せ場なしなのが勿体無い…といったところ。
トーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナ
狸娘(すず談)。
一見するとクールな性格のようだが律儀にツッコミ役を行っていて何気にコメディ方面で重要なキャラだったりする。
ただ「ふわふわモード」のトーニャはちょっと暴走し過ぎな感じもしますな…かわいいけど。
トーニャルートでの見せ場も結構ありますね。
釣りイベントは他ルートでは見られない愁厳の一面を目にすることができてポイント高め。
組織からの命令で主人公を誘惑する展開での半ば投げやりなトーニャもかなり笑える。
だが何と言っても一番の見所はこのゲーム屈指の芸人キャラであるウラジミールとの掛け合いでしょう。
これは設定と言動が上手く噛み合った好例として一見の価値ありです。
終盤の展開は“彼女”に関してはもう少し救いがあっても良かったんじゃないかなぁと感じましたが、愁厳や刑二郎をはじめとした生徒会メンバーの見せ場が多くてなかなか熱かった。
難を言えば主人公の見せ場が九鬼戦以外にほとんど無いことと、ドミニオンの連中は何しに来たんだ?って感じることか。
余談ですが序盤で主人公が使ったハルバードって刀子ルートだと生徒会室にあったのに、トーニャルートだと自室にあるんですね…。
飯塚 薫
昔の主人公の姉代わりの女性で現在はドミニオンの隊長。
先にこのゲームの不満点としてキャラの行動に不自然さを感じるということを書きましたが、その最たるものがこの薫ルートでした。
大前提として主人公はともかく薫は何故に昔の主人公に入れ込んでたのかがさっぱり判りません。
あんな事され続けてたら普通はその要因である主人公に対して好意を抱くのは不自然な気がするのですが…姉としての保護欲から変化したにせよ、今ひとつ心理描写が弱めなので個人的印象はあまり良くありません。
シナリオ展開も主人公と薫の再開シーンがなんか淡々としていて勿体無いかな。
ただしこのルートでの薫に対するすずの言動はなかなか狂気じみていてナイスでした(笑)。
最初は流石に戸惑ったけど理由が語られてなるほどと納得できましたしね。
そしてもう一つ、薫ルートの特徴として虎太郎のカッコ良さが際立ってました。
零奈を口説いた一言は痺れます(笑)。
あとは敵キャラの光念輝義も散り様がなかなか好印象。
はっきり言って主人公の立場はありません。
如月 すず
結界の張られた琥森島の森に住んでいた妖狐。
プライドが高く、人間を憎んでいるけど主人公の事は好きという複雑な感情設定ながらキャラ立ては割と良かったんじゃないかなと思います。
先にも書いたように薫ルートでの狂気じみた言動がなかなかよろしい。
すずのシナリオ展開はすずの能力である“言霊”に関する使われ方が今ひとつかなと言った印象を受けました。
あの一言が入っただけでキャンセル不可…というのは他ルートでポンポンと言霊解除するのを見てきただけに少々受け入れ難い展開でした。
終盤でのドミニオンvs生徒会メンバーの流れはなかなか熱くて満足。
トーニャや虎太郎先生は役割が中途半端に感じたのが残念ですが、刀子や刑二郎…それと戦闘とは別方面でさくらの見せ場が多かったのは嬉しかった。
ラストバトルに関しては先にも書いたように不満があるのですけど、別ルートでの九鬼と主人公のやり取りはなかなか良かったかと。
エピローグを見比べるとこれが個人的に一番後味の良い展開に思えました。
私的満足度: ★★★★★ ★★★☆☆
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