Rascal・改 − Game Impression
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いつか、届く、あの空に。
発売日:2007.01.26 / Lump of Sugar
 全CGを補完してコンプ。 所要時間は1stプレイ12時間、コンプまでは24時間くらい。 事前情報をほとんど入手せず、前作『Nursery Rhyme』の感覚で始めたのでプレイ中は色々と意表付かれまくりでした(苦笑)。

 芸術家としての著名人を多く輩出している巽家に生まれながら今日まで一族の人間達のような才能が開花せずにいた主人公「巽策」。 ある日、一族の祖先が使用していた屋敷へ巽家の人間を代表して行く必要があるという話を聞いた主人公は逃げるようにその屋敷のある空明市へと訪れる。 そこで主人公を待っていたのは主人公のヨメだと主張する「唯井ふたみ」と名乗る少女だった…というあらすじ。


 最近では珍しくなった画面全体にテキストが表示されるノベルタイプのADV。 エンディングのあるヒロインは3人でエンド総数も3つ。 全てのエンドを見た後におまけシナリオと世界観に関連してると思われる謎ノベルが開放されます。 選択肢の数は少なく、前半に集中しているのでADVとしての難易度は低め。


 序盤は才能に恵まれた一族の中で自分だけ落ちこぼれて劣等感を抱いていた主人公が新たな環境とヒロイン達との交流によって成長していく様子を描いた学園恋愛物…と勘違いしてしまうような流れで進行していきます。 実際、ヒロインやサブキャラ達との出会いや日常会話などは各キャラごとの個性を活かした笑えるやり取りが多くてキャラゲーとしての掴みは良好。 メメの主人公に対する想いを綴ったお手紙とか素敵過ぎです(笑)。 主人公も別にネガティブ思考まっしぐらという訳ではないし割とテンポの良い掛け合いが多いのも好印象。

 ところがヒロインが全員揃うあたり(具体的には傘姉が登場するあたり)から段々と伝記物要素が強くなっていき、終盤になると獲物や特殊能力を駆使した超絶バトル展開になるという…序盤の雰囲気からは予想外の方向へ流れていったのでちょっと困惑しましたよ。
 もっとも伝記バトルの流れになることに対しては大きな不満は無く、寧ろ先が気になる展開になっていて悪くなかったと思うし、物語が大きく動き出すタイミングで流れる第2オープニングなんかも凄くインパクトがあったと思ってます。

 ただ…この作品のテキストがちと独特で、やたらと回りくどい言い回しと大量の薀蓄に辟易してしまい、先が気になる展開にも関わらず読み進めていくのに激しい疲労感を感じてしまった事が個人的に大きな不満となってしまいました。 テキストに関しては個性と言ってしまえばそれまでなんですが、「あれ/これ/それ」「あんな/こんな」という感じの代名詞がやたらと多くて文章から要点を理解するだけでも疲れてくるのです。
 「だからそれは、生まれた瞬間から手にしていたものがあった。 それが何であるかを求める事にはまるで意味がない。 それが何であったとしても、それはただそれでしかなく。 意味があるのは、それが何を持って生まれてきたかという事でしかないのだから。
 ↑は敢えて「それ」を使用しているので例として挙げるのはちょっと相応しくないですけど、シーン転換後にいきなりこんなテキストを垂れ流されても混乱しますよ。 もうちょっと私のような馬鹿にも優しい文章をお願いしたいところ。

 また、舞台となる街や登場人物の設定が物語に深く関わってくることもあり、中盤までは日常描写に加えて終盤への伏線や世界観の解説がかなりの比重を占めている上に、その解説も主観的な説明と客観的な説明とが混在していたりするのも疲れる要因になってます。
 夜になると雲に覆われる街と星空を見たことのない住人達。 雲払いの儀式として100年に1度執り行われつつも一度も成功例のない照陽菜(てりびな)と呼ばれる行事。 その照陽菜を行う12人の天文委員。 街を二分する名家「唯井家」と「桜守姫家」の確執。 巽家とこの街との関係…などなど、かなりの設定と伏線が次から次へとポンポン出てくるのでそれらを把握していくだけでも一苦労。
 設定に惹かれるものがあれば物語展開への吸引力が増しますが、その一方で終盤にもこれらの謎解きや解説は続いていくので、全ての設定を把握した上で物語展開のみを楽しめる場面はほとんど無く、感情移入度がかなり低くなってしまう事も私的にはマイナス要素でした。


 物語内容の方にもちょっと触れさせて貰うと、空明市とか照陽菜とか登場人物名など、名称に意味を持たせてその意味を作中で明かしていく…という流れはなかなか面白かったです。 この作品に登場するキャラクターってなんかRPGの名前入力画面でテキトーにボタン連打したかのような感じのも居ますけど、全ての登場人物の名前に意味があったのね。

 ただ終盤の展開はちょっとぐだぐだしてる印象を受けますね。 まずバトル描写が演出も含めて味気なく、妖刀の能力が突然切り替わったり、炎魔焦熱地獄(違)で狼に突っ込んだり、戦車を持ち出したりと妙なところばかり印象に残ってますよ。 そして何よりも最後の最後で風呂敷を広げ過ぎなんじゃないかと。 それまで空明市という街中だけの話だと思ってたら、なんかいきなり宇宙規模まで話が広がっていって「( ゚д゚)ポカーン」とした。


 エロのほうは3人のヒロインそれぞれ終盤に1回ずつ。 使用CGは6枚と多めですけど内容的には無難な和姦エロと言ったところでしょうか。 キャラ立ては悪くないし声優さんの演技も良好ではありますけどエロシーン中でも色々と設定の解説が垂れ流されるので実用面では厳しいものがあると思います。


 システムまわりは私の環境では安定してました。 CGは枚数的にも質的にも不満なし。 BGMもなかなか良質で素材面での不満はありませんでした。


 まぁ楽しめたか否かで言えば「楽しめた」作品ではありますが、やっぱり文章の回りくどさが個人的に足を引っ張る感じになっているのが残念なところ。 ライターさんは楽しんで書いてるんだろうなぁと感じられますけど、もうちょっと読み手にも理解し易いテキストを心掛けて欲しかったです。 『めぐり、ひとひら。』のときはそれほどテキスト面での不満は無かったと思うんですけどねぇ…ちょっと再プレイしてみようかな。


以下、ヒロイン別雑感(ネタバレあり)。


唯井 ふたみ
 主人公のヨメだと主張して同居することになる少女。 家事全般が得意で他人への心配りも出来る良い娘だが、言葉足らず故に毒舌ぎみな口調になる。 「今日から私が、オマエの炊事・洗濯・掃除もろもろ含めて世話してやるから、ありがたくよろしくお願いします」 とか丁寧なんだか乱暴なんだか分からん言葉遣いが結構ツボでした。
 実家は空明市を実質的に管理している雲戌亥家。雲戌亥を唯井と聴き取っていたり、雲戌亥家にとって都合の悪いことは思考力が働かないというシステムは謎解き物としては反則ぎみじゃね?とか思った。 他にも村正だと思ってた刀が実は神雷で、それが分かった途端に遠距離攻撃が出来たりとか、自分自身を武器化して狼に突撃とかもう燃え云々よりも「何じゃそりゃ」って感情の方が強くて盛り上がらなかった。 つか、結局あの狼って何? 主人公の能力は武器を視ることじゃ無いって言ってたけど、だったら何? まぁそれ以前に個人的には蛙蟆龍の必要性も今ひとつ理解出来なかったんですが…静御前にときめいたから良いか(笑)。

桜守姫 此芽
 空明市の名家「桜守姫」の長女でいつも和服を着ている。 主人公に嫌われようと必死に罵倒しようとする様がなかなかよろしいですね。 立ち絵の赤面する表情とかも可愛いくってグッド。
 ふたみルートを先にプレイすると主人公が幼少の頃に命を失わなかった事と此芽の桜守姫としての立場が弱いことには関連性がある事は容易に予想できますが、「あたしはおーすきこのめさまよ!」は流石に予想外で思いっきり撃沈されちゃいました。 エロシーンの時に「成長して逢えたのに、成長する前の方が良かったってオチ?」と尋ねられても返す言葉がありません(笑)。
 物語展開としては全ルート中で一番理解し易かったですね。 あの鬱陶しい御前を倒した時にドサクサに紛れて倒したのって ふたみルートで出てきた狼ですよね?

明日宿 傘
 常に和傘を持ち、ふたみや此芽からも一目置かれてるお姉さん。 かなりの大食らいで、和傘からは四次元ポケットのように丼物やラーメンが出てきたりする。
 傘ルートは傘に懸想する主人公に対して全く同調出来なかったのが辛かった。 あの状態でふたみを振る心情が理解不能でしたし、ふたみを含めた雲戌亥の人間をサクサクと殺戮しまくった挙げ句に幸せなその後とか語られてもねぇ。 此芽ルートの裏では主人公の介入も無い状態であの惨劇が起こってたと思うと傘よりも菊乃丸とか雲戌亥の人間の方に感情移入してしまいます。 とりあえず、膨大な説明調のセリフを収録された声優さん(北都南さん)と編集スタッフはホントお疲れ様でした(笑)。


キャラ別のお気に入り順は
 此芽 > ふたみ > 愛々々 > のん > みどの > 傘


私的満足度: ★★★★★ ★★☆☆☆

Copyright(c) 2007 SHEO