Rascal・改 − Game Impression
[メニュー枠OFF]

群青の空を越えて
発売日:2005.09.30 / light
 一通りのエンドを見てCGも100%になったのでコンプリート。所用時間は1stプレイで10時間前後、コンプまでは25時間ほどだったと思います。

 萩野憲二によって提唱された円経済圏構想は、その理念が歪められ、今では利己的な関東の独立と、それを阻止しようとする西日本で武力による抗争が展開されていた。 既に萩野憲二は暗殺されたが、その息子である主人公「萩野社」は筑波航空学校の第一種予備生徒として戦闘機(グリペン)に乗り、戦いに参加することになるのだった…というあらすじ。


 東西で内戦状態にある日本が舞台になっている架空戦記物のADV。 ゲームは章立てになっていて選択肢によって割と序盤でルートが確定します。 クリア順規制があり、初期状態で到達できるエンドは3つのみ。 その3つのエンドを見ると更に2つのエンドが追加され、それらを全て見た後にグランドルートが開かれるという構成になっていました。

 日本が東西に分裂して戦争するという設定はかなり無理があるなぁと感じますが、同梱の冊子にライターさんが「グリペンに乗って戦える話を書きたかった」という類のことを書いているように、世界観は後付けのようなのでプレイ前は「ライターさんの自慰に付き合うか」くらいの気持ちで取り掛かりました。
 実際、ゲーム中は東西に分裂した経緯などの突っ込んだ話はグランドルート付近まで語られず、最初の数周は戦争という濁流に翻弄される学徒達の様子がメインで展開します。

 状況的には主人公達が属する関東軍はEUが後ろ盾となってはいるものの敗色濃厚。 対する関西軍の後ろ盾は米国だが時期的に大統領選の真っ最中で、ルートによってこれらの政治的状況が変化し、戦局も異なってくる…という展開。 ヒロイン毎に結構中盤から展開が異なってきてシナリオの幅があるのは個人的に高評価しています。 とは言っても劣勢が逆転するほどの変化はないので基本的にどのルートでも終盤は重苦しい雰囲気になりますが…。

 主人公を含めた登場キャラ達は良くも悪くも純粋で、視点が頻繁に切り替わるオートザッピング機能をフルに活用して各人の抱いている理想や覚悟、そして主人公とヒロインの恋愛描写と言ったものを良く表せていてドラマ性は高めに感じました。 特に若菜ルートでの主人公捜索前後の流れは単一視点だと味気ない展開だと思えるだけに凄く印象に残っています。

 グリペンでの戦闘描写は離陸時などの極一部でムービーを使用している他は派手な演出はほとんどなく、現代航空戦らしい呆気ない印象を受けました。 仲間達もロシアンルーレットのように呆気なく散ってしまう事があるので、派手に盛り上がる戦闘を期待すると肩透かしを食らうと思います。 個人的には見せ場など全く無しにあっさり殉職してしまうことにリアルさを感じましたけど。

 戦争物である以上は避けては通れない戦争という行為や人の死に関する葛藤とか受け入れ方などはシナリオ個別で見ると序盤のシナリオなどでは端折られてると感じられますが、ゲーム全体として見ると割としっかりと描かれていたと思います。
 例えば某ルートだと泥沼の退却戦が展開され、読んでいて衝撃的な描写が多くあって陰鬱な気分になりますが、そういった描写も戦時における命の扱われ方の一つとして読み手に印象付けることによって別ルートでの展開に説得力が増していたと思います。

 そんな訳で全体としては非常に良く錬られたシナリオなのですが…どのルートも終わり方が凄くあっさりしているのが残念。 前半の3ルートはともかく、後半の3ルートは「えぇ!?ここで終わるの?」と感じてしまうくらい唐突に幕引きになって拍子抜け。 ASで補完されるのなら良いのですが、完全版への布石だとしたらちょっと納得いきませんよコレは。

 テキストはやはり戦闘機やその他兵器の固有名詞が頻繁に出てくる上に、それらの説明がほとんど無いので私は逐一Googleで調べながら読み進めてました。 できれば用語解説のようなものを用意しておいて欲しかったかな。 あとは略称の上に正式名称のルビが細かくふってあるのですが…漢字を1/4画で表示されても読み難いだけなので、このへんも何とかして欲しかったところです。 CGとテキスト内容が一致していなかったり、誤字がやたらと多かったのもマイナスですね。

 エロシーンはヒロインあたり1〜3回とバラつきあり。 加奈子などは回数的には1回ですが一晩集中型で結構な尺がありましたし、どのヒロインもキャラ立てはしっかりしているのでエロシーンもヒロインに合った展開になっていてなかなか良さげでした。
 年上キャラは基本的に主人公がリードされる展開で典型的な年上相手の和姦シチュという感じで、取り立てて書く事がないけどコレと言った不満もなし。 同世代や年下組はお互いの初々しさが非常に良い感じで描かれていて、導入時に初めて肩を抱き寄せたときの高揚感とか結構感情移入できて満足(笑)。
 ただし主人公が声ありで、エロシーン最中も少ないながらもセリフがあるので、エロシーンで男の声がすると萎えるという人は要注意かと。

 ヒロインをはじめとした声優さんはどれもキャラに合っていたと思うし、演技の方も申し分ありません。 コックピットと管制とのやり取りは英語になっていて雰囲気も良く出ていたと思いますしね。 管制はヒロインである若菜が担当しているのですけど、最初は拙い感じだったのが後半では流暢な英語になっていて、このあたりの演技力も素晴らしいと思いました。

 システムまわりは相変わらず動作がワンテンポ遅れるのが鬱陶しいですが、AS対応のシステムなので仕方ないのかな…。 ただスキップキャンセルが稀に無視されるのは勘弁して欲しかったです。

 近未来の架空日本を舞台にした戦争物ということで、設定や世界情勢を含めた政治的な展開には無理があると思いますが、このあたりを許容できればゲーム全体でテーマ性の高い人間ドラマとして高いクオリティなんじゃないかと思います。


以下、キャラ毎の雑感(ネタバレあり)。


水木 若菜
 主人公の同級生で二種管制予備生徒。 個人的にオートザッピングによる心理描写が最もよく出ていたと感じられて一番のお気に入りヒロイン。 弟のトシや更衣室での聡美との会話など普段主人公の前では見せないちょっと下品なやり取りが良い感じ。 圭子に対して嫉妬する様とか個人的に結構ツボをついてきましたし、主人公のホモ疑惑の際、聡美に対して「身近な人をネタにするのはルール違反じゃない?」と嗜めたり弟を差し出そうしたりとヤオイネタに一言あるのもウケた(笑)。
 加奈子ルートでは一瞬プチ寝取られ展開も覚悟しましたが未遂に終わって良かった…達也はちょっと気の毒でしたけど。 あとバンカーバスターのシーンがかなり衝撃的だった。
 全シナリオ中、この若菜の個別ルートが最もエンドとして纏まっていたんじゃないかと思います。

日下部 加奈子
 戦死した兄の面影を求めてハンガーに出入りする附属校生徒。 妹キャラ…というより健気な性格が結構癒されました。 ただ、この加奈子ルートは全ルート中で最も重苦しく、プレイ後は暫く呆然とするほど衝撃的な展開で、キャラ本人よりそっちの方が印象に残ってます。 つーか最後に主人公が飛び立ってから主人公の見せ場が全くなく、エンドでひょっこり現れるだけ…って流れももう少し何とかならなかったのかなぁ。 姉も仲間も失ったトシが不憫すぎる。

渋沢 美樹
 筑波戦闘航空団一尉で腕利きのパイロットだったが、目の負傷を機に主人公とトシの教官を勤める。 以前は加奈子の兄である日下部 諒と恋人同士で、諒が亡くなっている今は生き急いでいる感じを受けるものの、シナリオ展開自体はあまり印象に残っていません。 若菜ルートでの最後が個人的に最も印象深い反面、グランドルートでは何となく報われない立場でしたな。

澤村 夕紀
 フリーのカメラマン。 この戦争を外部から見た視点で語ってくれる貴重なキャラですが、個別ルートはかなり尻切れな印象。 グランドルートでももうちょっと見せ場を用意して欲しかったかな。

長田 圭子
 隠しキャラ的な位置付け…なのかな。 主人公の父・萩野憲二の思想を引継ぎ、活動をしている。 夕紀ルートの派生シナリオっぽい流れで、最後はやっぱり尻切れな印象を受けました。 ただ、キャラとしての圭子は結構印象に残りますね。 特にヤオイネタ大好きな腐女子っぷりが良い感じですし、グランドルートでの若菜とのやり取りなど結構お気に入り。 エロシーンで主人公がパンツを貰う一連の流れも個人的にツボでした(笑)。

一条 貴子
 空自のエースパイロット。 ほとんどのルートでは敵として描かれるだけですが、グランドルートでは主人公達に深く関わってきて、別視点からこの戦争を語るキャラとして印象深いですし、その主張も感情移入し易かった。 貴子と主人公が打ち解けていく流れもなかなか良さげでエロシーンが無いのが残念。


ヒロインキャラのお気に入り順としては
 若菜 >> 圭子 > 加奈子 > 貴子 > 美樹 > 夕紀
といった感じになりました。


私的満足度: ★★★★★ ★★★☆☆

Copyright(c) 2007 SHEO